僕は旭川市に赴き、とある試験を受験していた。
日本漢字能力検定、つまり漢検である。
受験したのは準1級だ。結論から述べると、
合格であった。ギリギリだったけど。
この資格を持っているからといって、仕事に潰しが効くというようなことでは無い。
それでも受験してみた理由としては、
◆何かしら勉強して、頭を動かしたい気分だった
◆少しでも語彙力を増やして、ブログ等に役立てば良いかなと思った
◆大学も出ていないし、いわゆるブルーカラー的な業務が多い身だけど、
これくらいは出来るんだぜという、せめてもの抵抗
というわけで、これは浦臼での生活とはほぼ関係の無い、個人的な話。
興味のある方、お時間のある方だけご覧いただければ幸いである。
けっこう長いので。
まず2級は、20代の初めに取得した。あれも思い付きだった気がする。
常用漢字2,136字が対象で、高卒・大学・一般程度とされている。
が、実際は非常に難しい。しっかり勉強しないと、一般成人でも受からない。
合格率は20%ほどに留まるようだ。
にもかかわらず、世間の評価は高くない。
これまで何度も履歴書に書いてきたが、ほぼほぼスルーである。
まあそれは良いんだけど。
今年の3月だ。書店で、たまたま目にした漢検コーナー。
準1級かー、やってみよっかな。と思い立って問題集を購入。ヒヨコちゃんかわいい。
しかし軽い気持ちで始めてみたは良いものの、この準1級、
め ち ゃ く ち ゃ 難 し い 。
対象漢字数は、常用漢字に800字も加わった約3,000字。
いちおう見たことある字がほとんどだが、見たことない字もある。
もちろん、漢字を覚えれば良いというだけではない。
それらが無数の熟語となって襲いかかってくるわけである。
大卒・一般程度とされているものの、一般的には使用されないような、
難解な語もたくさん登場する。
新生活でバタバタしており、本格的に勉強を始めたのはゴールデンウィーク。
10連休だったから、家に籠もって机に向かう日もあった。
ページを捲るたび目にするのは、とにかく読めない書けない知らないものがほとんど。
平日の夜だと、一日5ページくらいが限界。とにかくコツコツと覚えていくしかない。
そうこうしているうちに、試験の一週間前。ようやく問題集を制覇する。
これで完璧だぜと、
前年度、実際に出題された過去問に、満を持してトライ。
問題集の中身はクリアしてるんだから、余裕だろ。
と思ったものの、おや?ぜんぜん分かんねえぞ。なにこれ。結果は135点。
漢検というのは200点満点だ。合格ラインは、準2級までが70%だから140点。
2級以上は80%だから160点。いやいやいや、7割にも届いてねえよ。やべえよ。
というわけで、
7,8割は既に解ける問題だが、知らないものもまだまだ出てくる。
先の問題集もこちらも、両方とも頻出度順のはずだけど。
それだけ、とにかく出題範囲が広すぎるということだ。
恐るおそる別の過去問に二回分、取りかかる。結果は、150点と170点。
見事に合格ライン上で、タイトロープダンシングだ。
黒魔術かと思うくらい、ノートにびっしり書き込んできた。
右手の筋肉痛が、報われると良いのだが。もはや、問題との相性で合否が決まる状態。
そして、いよいよ当日になってしまった。持っているものを出し切るしかない。
準1級の会場には老若男女が、僕を含めて20名ほど。
やや張り詰めた空気のなか、一時間一本勝負が始まった。
ではここから、実際の問題を交えて試験形式を紹介していこう。
(一)読み
1点×30問=30点。音読みが20問・訓読みが10問という内訳になっている。
身近なところだと【1.牝牡】【2.些末】、
難しいところだと【3.砧杵】【4.聯珠】、
訓読みでは【5.夙に】【6.苧環】など。
シンプルで基本となる読み問題だが、ここからして既に難しい。
正答…【1.ひんぼ】【2.さまつ】【3.ちんしょ】
【4.れんじゅ】【5.つとに】【6.おだまき】
(二)表外の読み
1点×10問=10点。簡単な常用漢字だが、それらの難しい読み方。
【7.激しく詰られる】【8.虚ろな日々を送る】など、
文脈を追えば連想できるものは多い。
でも【9.俳諧の道を攻める】は読めなかった。
「せめる」でも「きわめる」でもないのか。
正答…【7.なじ】【8.うつ】【9.おさ】
(三)熟語の読み・一字訓読み
1点×10問=10点。さらに別パターンの読み問題。
【10.劃定】【11.劃る】のように、熟語とそれを意味する同じ字が、
セットで出題される。こんな字、見たことないよね。
正答…【10.かくてい】【11.くぎる】
(四)共通の漢字
2点×5問=10点。二つの熟語に共通する漢字一字を書く。
ひらがなで8つの選択肢があるので、その中から選ぶようになっている。
答え自体はシンプルな漢字なのだが、全く聞いたことのない熟語がほいほい登場。
【12.武器を捨てて幕府に○順する/故郷に○臥し静かな余生を送る】
「き」なんだけど、こんなん分からん。
正答…【12.帰(帰順/帰臥)】
見れば、なるほどねと思うけどさ。
総合的な語彙力というか想像力というか、そのへんが試されるね。
そして読みは1問1点だったが、ここからは1問2点。
ひとつ落とすたびに、じわじわと自分の首を絞めることになる。
(五)書き取り
2点×20問=40点。本命ともいえる分野で、躓くと大減点してしまう。
もともと知っている漢字は多いが、書けと言われると厳しいものばかり。
【13.宮廷のバンサン会】【14.廊下の足音がフスマの外で止まった】
【15.口をスボめる】など、読めるけど書けない字が繰り出される。
【16.背中一面にヤイトの跡】なんか、漢検やってなきゃ知らんだろ。
勘の良い人ならピンとくるのだろうか。
正答…【13.晩餐】【14.襖】【15.窄める】【16.灸】
(六)誤字訂正
2点×5問=10点。文章の中で、間違っている一字を選び訂正する。
【17.太子の建てた細やかな堂宇が後に壮麗無比の瓦藍を誇る巨刹に変貌した】
もはや意味不明な文章だが、怪しく見える漢字が絶妙に散りばめられている。
正答…【17.瓦→伽】
(七:問1)四字熟語 書き取り
2点×10問=20点。【18.○○叫喚】【19.○○夕虚】のように、
2字が見えていて残りの2字を埋める形。 ひらがなで10個、選択肢が用意されている。
この四字熟語が厄介で、とにかく覚えるしか方法がない。じゃなきゃ絶対に解けない。
それでも7つくらいは分かるが、3つくらいは見たことないのが出てくるのである。
【20.○○忠信】だの【21.天壌○○】だの、んなもん知るか。
選択肢 [あび・こうてい・ちょうえい・むきゅう]
正答…【18.阿鼻叫喚】【19.朝盈夕虚】【20.孝悌忠信】【21.天壌無窮】
(七:問2)四字熟語 意味と読み
2点×5問=10点。解説・意味に当てはまる四字熟語を8つの選択肢から選び、
その読みを解答する。これまた難解なものばかり並んでいるのだが、一部分だけ抜粋。
【22.みだらな音楽…鄭衛桑間】【23.貞節堅固なること…鳴蝉潔飢】
正答…【22.ていえいそうかん】【23.めいせんけっき】
(八)対義語・類義語
2点×10問=20点。 各5問で、ひらがな10個の選択肢から漢字に直す。
これも難しい。幅広い熟語の知識が問われることになる。
対義語【24.緊張】【25.柔脆】
類義語【26.自儘】【27.不調法】
選択肢 [けんろう・しかん・そこつ・ほうし]
正答…【24.弛緩】【25.堅牢】【26.放恣】【27.粗忽】
類義語に引っ掛かり、けっこう落としてしまった。
(九)故事・成語・諺(ことわざ)
2点×10問=20点。これもまた、数多あるものを覚えるしかない。
【28.ジジョの交わりを結ぶ】【29.コショウ鳴らし難し】
など、しかし実用性はあるというか、良い言葉も少なくない。さすが故事。
今後のブログタイトルなんかにも使っていけそうだ。
正答…【28.爾汝】【29.孤掌】
(十)文章題
書き取り:2点×5問=10点 読み:1点×10問=10点。
文学作品などが引用され、その中での書き取りと読みが問われる。
今回は森鴎外の「舞姫」と、もう一つはもっと古文みたいなやつ。
回答が複数、考えられるものもあるから、文脈を捉える必要がある。
【30.ソウゼンとして死人に等しき我が面色】【31.藩閥のソウガとなりて】
【32.乍ち】【33.私学の発達を碍ぐる事を】といった具合。
しかし【34.渠等】は読めないっすわ。
正答…【30.蒼然】【31.爪牙】【32.たちま】【33.さまた】【34.かれら】
以上、長くなったし漢字だらけだが、
果たしてここまで飽きずに読んでくださっている方はいるのだろうか。
いなければ独り言だ。備忘録である。
ちなみに27問以上正解していた方は天才なので、今すぐ合格できるだろう。
他はボロボロと点を取りこぼし、結果は167点。アブねえ。
答えられたはずのものもいくつか落としているから、詰めの甘さも課題だ。
とはいえ準1級の合格率は、昨年度が12%だったらしい。
ギリギリとはいえ突破できたことを、少しは誇っても良いかな。
ところで、まだ上には1級があるわけだが、これは正直、1ミリも興味ない。
対象は6,000字にもなるし、パッと見、わけ分からん漢字しか出てこない。
完全に漢字マニアの方々の世界だろう。
でも頭の体操になるしボキャブラリーも増えるし、今後もぼちぼち、
日本語の勉強をしていきたい。そして漢検は区切りがついたから、
今度は別の何か、取り組んでいけるものを見つけたいところだね。
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